管理者:金原瑞人

タイトル・・・・・・・Ruby Electric
作者・・・・・・・・・Theresa Nelson
出版社・・・・・・・・Simon & Schuster 初版年・・・・・・2003年
ページ数・・・・・・・264ページ
対象年齢・・・・・・・10~12歳

(梗概)
ポップコーンを抱えてシートに座り、場内が暗くなると……さあ、ルビィの大好きな魔法の時間のはじまり、はじまり。ルビィは、ママと弟の三人暮らし。パパは5年前に家を出たきり行方がしれない。現実はハードだけど、ルビィは負けたりしない。大好きな映画の脚本家になるという大きな夢があるんだから。でもある日、ビッグ・スキニーとマウスの悪がきコンビが起こした落書き騒動に巻き込まれて……。

(主な登場人物)
ルビィ・・・・・・・映画が大好きな12歳。優等生。将来は脚本家になりたい。
ピート・・・・・・・ルビィの弟。もうすぐ7歳。ヌイグルミのマンモスがお気に入り。
パール・ミラー・・・ルビィの母親。
フランク・ミラー・・ルビィの父親。警察官をしていたが、5年前に突然姿を消した。
ビッグ・スキニー・・ルビィの同級生。本当の名前はヴィンセント。劣等生。
マウス・・・・・・・ルビィの同級生。本当の名前はマシュウ。ビック・スキニーの悪友
エド・・・・・・・・パールが勤める足治療病院の医師。パールに好意を抱いている。
ミス・ピアース・・・ルビィ一家が暮らす部屋の大家。オールドミス。

(あらすじ)
サンフェルナンド・ヴァレーのレストランで、ルビィは、ママやピートといっしょに、五年前突然姿を消してしまったパパを待っていた。これまでにも何度か会う約束をしたが、すっぽかされてばかり。そしてやはり、その日もパパは現れなかった。
なぜパパが突然姿を消したのか、理由はわからない。でもパパが家を出たときのことは覚えている。ママは床にぺたりと座り込んで、泣きながら、パパの写真を切り刻んでいた。
レストランから戻ると、アパートの前でミス・ピアースが警官にむかってわめきたてていた。「犯人はあの二人組のいたずらっ子です。あれを見てください……」ミス・ピアースが指差したコンクリートの堤防に、真っ赤なペンキの落書きがあった。“悪まがはしる。かくれるばしょわない”。犯人が誰か、ルビィにも心あたりがあった。
ことの起こりは4月だった。社会科を教えるミセス・ヘインズが、生徒をいくつかのグループにわけ、レポートをまとめさせることにした。ルビィが同じグループになったのは、問題児のビッグ・スキニーとマウス。優等生のルビィにとって、これは迷惑以外の何ものでもない。二人のことなど相手にもせず、ルビィはさっさと自分の割り当てだけを完成させた。0点も覚悟の上だったが、レポートは意外にもAプラスの評価。ミセス・ヘインズによると、ビッグ・スキニーがレポートを完成させられなかったのは自分たちのせい、巻き添えでルビィが悪い評価をもらうのはもうしわけないと言いにきたという。どうやらビッグ・スキニーがルビィにほのかな好意を寄せているらしく、それ以来、何かと二人はルビィの前をうろちょろするようになった。あの落書きも二人の仕業にまちがいない。だが、それを警官に告げるのはためらわれた。
ルビィの夢は将来脚本家になることだ。毎日タイプライターに向かって、ストーリーを書きためている。いったん作業を始めると、ルビイの耳にはもう何も聞こえなくなる。その日もシナリオを書いている最中に、誰かが玄関をノックした。だが、ようやくルビィが応対に出たときには、訪問者の姿はなく、「寄付をありがとうございます」という慈善団体のチラシがドアに挟み込まれているだけだった。
外出先から戻ったピートが、お気に入りのマンモスのヌイグルミ“マンモック”がいないと大騒ぎをはじめた。ダンボールの箱に入れてポーチにおいてあったマンモスを慈善団体が寄付の品だと勘違いして回収していったらしい。
三人は慈善団体の寄付受付センターへかけつけた。だがセンターのオフィスは休みだ。偶然にその場に居合わせた、ママの同僚、赤ら顔でハゲの足治療の医師、エド・ダーガンもいっしょになって心配してくれたが、結局マンモックをとりもどすことができなかった。
センターを後にした三人は映画館へ向かった。だがピートの気分が悪くなったため、すぐに映画館を出た。車に乗り込みながら、ルビィは思った。「とにかくオープニングが見られてよかった」ルビィは映画のなかでもとりわけオープニングにこだわっていた。家に戻ると、ルビィも気分が悪くなってきた。病気なのかも……ピートが人食いバクテリアに感染していて……私も。緊急治療室に運ばれて……知らせを聞いたパパがかけつけて……。妄想はとめどもなくふくらんだ。我にかえり、ふと台所の窓から外を見ると、コンクリートの堤防に大書された詩が目に飛び込んできた。
悪まがはしる かくれるばしょわない
きみの くるまが ぶっこわれたら、
ぼくの くるまに のっけてあげる
しんぱいしないで ダイジョーブ
やちんだって きっちりはらう
たからくじを ばっちりあてて
ゼーンブ きみに あげるから
こんな落書きを誰かに見られたら! ルビィは立ち入り禁止の札を無視して、堤防へ駆けつけた。やっぱり犯人はビッグ・スキニーとマウスだ。ルビィは声を押し殺してよびかけた。「やめてよ!」「ミラー? どうしてここに?」とビッグ・スキニー。「そのへんな詩のせいに決まってるでしょ」「気に入った?」「気に入るもんですか!」「その詩、君のためにビッグ・スキニーが書いたんだ」マウスが言った。もうがまんできない! ルビィはそばにあったペンキの缶をつかみ、落書きに向かってぶちまけた。「おまわりだ!」突然マウスが叫んだ。パトカーがやってきた。
 警察に向かう途中、泣き出しそうなルビィにビッグ・スキニーが言った。「心配すんなって。おれたちが全部話すから」こんなときパパがいれば……パパなら無実の人間を逮捕したりしない。
知らせを聞いて、ママやマウスのパパが警察に来た。ビッグ・スキニーの保護者がわりは、なんとあのエドだった。ビッグ・スキニーは耳の遠いおばあちゃんと二人暮らしだ。だからおばあちゃんの代わりにエドが来たらしい。全員がそろうと、事情聴取が始まった。「ミラーは悪くない。おれたちの落書きを消そうとしただけだ」ビッグ・スキニーはルビィをかばったが、結局、調査官は三人全員に55時間の地域奉仕活動を言い渡した。
まず、三人は公園のごみ拾いをすることにした。ルビィが懸命にごみを集める傍らで、ビッグ・スキニーとマウスは拾ったグミ・ベアーを食べたりしている。最低だ。作業の途中、ルビィがふと顔をあげると、遠くにいる一人の男が目に入った。ルビィは息をのんだ。パパだ。まちがいない。「行かなくちゃ」そう叫んで駆け出す。「おれにまかせろ」後を追ってきたビッグ・スキニーが、男を止めてくれた。だが、ふりむいたその人の目は、ブルーではなく茶色だった。
 家に帰ったルビィは、公園でのできごとをピートに話して聞かせた。「ピートはパパのこと覚えてないよね。パパがいなくなったとき、たったの2歳だったから」だが、ピートは覚えていると言い張った。「何を覚えてるって?」仕事から帰ってきたママが、話に加わった。ルビィとピートは口をつぐんだ。ママの前ではパパの話をしないのが二人の暗黙の了解だ。ルビィが機転をきかせて、ピートの誕生日パーティを話題にすると、ママはビッグ・スキニーとマウス、エドをパーティに招待すると言った。なぜ、エドを? なんだか複雑な気持ちだった。急に不機嫌になり、図書館へ出かけようとするルビィを、ピートが追いかけてきた。「何?」「思い出した」「パパのこと?」「そう、ヨーヨーが上手だった」ピートはにっこり笑った。「ね、ちゃあんと覚えていたでしょ?」
ルビィは図書館ではなく、自分が勝手に“リッチマンズ・プラネット”と名づけた、おしゃれなブティックや瀟洒なマンションが立ち並ぶお気に入りの一角へ向かった。途中で顔なじみの老人と愛犬のテルマに挨拶をして、坂道を登っていく。上へ、上へ。息が切れるまで、登りつめると、そこは“ブリージング・ポイント”(息ができる場所)だ。どういうわけか、その場所に来ると、楽に息ができるような気がする。ルビィはポケットからブルーのヨーヨーを取り出した。忘れることなんてできない。パパはヨーヨーが得意で、いろんな芸当を見せてくれた。パパはどこにいるのだろう? 
もし私が有名な脚本家になれたら……すべてが上手くいくに違いない。ルビィは考えた。この丘の一番上に家を建てて、犬を飼おう。ママのためには花壇を、ピートのためには専用の人形劇場をつくる。エドが姿を消し、パパが戻ってきて、ママともう一度結婚する。
パーティ当日になった。ピートが願い事を唱えながらケーキのロウソクを吹き消して、プレゼントを全部あけたところで、ミス・ピアースがポーチにもう一つ、別のプレゼントが置いてあるのを見つけた。平べったい、茶色の包みだ。開けてみると、なんとそれはマンモックの絵だった。幸せそうな表情のマンモックが、コンクリートで固められた川ではなく、美しいきらめきを放ちながらゆったりと流れる本物の川のそばに立っている。その足元には、ナマケモノやサーベル・タイガー、オオカミが、そして空には羽を広げて飛ぶ絶滅寸前のカリフォルニア・コンドルが描かれていた。その絵を眺めて、ピートは言った。「僕のお願いが通じた! マンモックは自分のもといた場所へ帰ったんだ」
パーティが終わっても、プレゼントの贈り主がだれなのか、ルビィは考え続けた。突然頭の中にトランペットが高らかになり響いた。「パパだ! パパにちがいない」ルビイは心の中で叫んだ。「今は何かの事情で、私たちの前に姿を現すことはできないけど、パパはいつも私たちのことを見守ってる。ママ、お願い。パパを信じて」
ある日、川を眺めていたピートがつぶやいた。「あーあ、あの川を僕の絵の川みたいにできたらなあー」その一言でルビィはひらめいた。「できるわ! コンクリートの堤防にあの絵を描くの」絵をオーバーヘッドプロジェクターで拡大して壁に投影し、その線をなぞって、デザインを写しとってから、色を塗ればいい。まだ37時間残っている奉仕活動の中で、その絵を描くことにしよう。ルビィは自分の思いつきに夢中になった。
ルビィのアイデアは動物愛護や環境保護に関心をよせる人々を巻き込んで、思いのほか大がかりなプロジェクトになった。大勢の住民の前でプレゼンテーションをし、何度も役所に足を運んで交渉をかさね、ようやく計画を実行に移す許可がおりた。堤防を絵で埋め尽くすのは大変なことだったが、ビッグ・スキニーやマウス、そして多くの隣人たちの協力を得て、作業は着実に進んだ。毎日毎日、ペンキだらけになりながら一緒に作業にはげむうちに、いつしかルビィはビッグ・スキニーともすっかりうちとけていた。
ある日ルビィがコンドルに色を塗っている最中に、本物のコンドルが飛んできた。「見て!」ルビィは叫んだ。ピートがつぶやいた。「コンドルって羽がないとジュラシックパークの恐竜みたい」コンドル、恐竜、スピルバーグ! ひらめいた! 絵の完成披露にスピルバーグを招待しよう! さっそくルビィは招待状を書きはじめた。
絵の完成が間近になった。手伝いにやってきたエドのポケットからのぞく、金色の小箱を見つけたビッグ・スキニーが叫んだ。「中に指輪が入ってるんだろ? ミラーのママにプロポーズするんだね!」エドは真っ赤になり、まだ承諾はもらっていない、この話は内緒にしていてくれと、二人に頼んだ。
コンドルの目を何色にするかで、ルビィとマウスが激しく対立した。図鑑で調べたら、コンドルの目は金色だったというマウスに対して、ルビィはもとの絵が青だから青にするべきだとゆずらない。険悪なその場の雰囲気を変えようと、ビッグ・スキニーはちょっとした冗談のつもりで指輪の話を持ち出した。「だれでも青より金色が好きだよね。ね、エド」「今はダメだ」エドは目でビッグ・スキニーを制した。だが、マウスが口を開いた。「言っちゃえよ。指輪を渡すんだろ」沈黙が広がり、ルビィはその場から駆け出した。
部屋に閉じこもったルビィは、せっかく書いたスピルバーグへの手紙を、細かく切り裂いた。心配して様子を見に来たママに、ルビィは聞いた。「結婚式はいつ?」「まだ、決めてないわ。ルビイとピートに相談もせず、そんな大事なことを決めたりはしない」とママ。「相談せずに決めたりしない? ウソよ。パパがいなくなったとき、ママはいろんなことをひとりで決めて、何にも説明してくれなかった」「そうね、ママがいけなかったわ」ママは二人をしっかり抱いて話しはじめた。高校生のときにパパと知り合って、18で結婚したこと、数年間は幸せだったこと、パパはステキな人で、警察官としても立派だったこと。そして最後にママは二人に聞いた「ワイロって知ってる?」パパの唯一の欠点はどうしてもギャンブルがやめられないことだった。負けを繰返し、借金がかさみ、その返済に困って、犯罪を見逃す見返りにワイロを受け取った。事実が発覚し、パパは三年間の懲役を申し渡された。それが、パパがいなくなった本当の理由だった。ママが部屋から出て行ってしまうと、ピートが言った。「パパは、催眠術にかけられたのかも。映画でもあるでしょ? 殴られて、気がついたらお金を握ってたとかさ」「ママが言ったこと聞いた? それが何よりの証拠よ」「証拠があったって、間違ってることもあるよ。例えば、『逃亡者』のハリソン・フォードみたいにさ」パパを探し出して、本当のことを聞こう! 二人はパパを探し出す決心をした。「電話帳にパパの名前がのってるかも!」ピートが叫んだ。
電話帳をひくと、フランク・ミラーは実にあっけなく見つかった。マウンテン・ローレル・レーン3502番地1/2。なんと、それはルビィが“リッチマンズ・プラネット”と名づけた、あの美しい住宅街の住所だ。あくる日、二人はパパの家を探しにでかけた。番地を見ながら歩いていくと、あの老人と犬が住んでいる家にたどり着いた。「何か用かね?」老人が手を振っている。ルビィが3502番地1/2の家を探していると告げると、それは自分の家の裏だと老人が答えた。「約束でもしているのかね?」「ううん、約束はしてないの。だって私たち、パパに会いにきたんだもの」老人は驚き、その家に住む男は、一年半ほど前にぶらっとやってきて住みついたのだが、子どもがいたとは知らなかったと言った。やがて家の前にピックアップが停まった。中から降りてきたのは、やっぱりパパだった。
二人を見て、パパはしばらく呆然と立ち尽くしていた。ルビィはといえば、この五年間、いつも再会のシナリオを思い描き、数え切れないほどの台詞を用意していたのに、いざとなると、どんな言葉も浮かばない。やっとの思いで、ルビィは「大好きなパパへ、パパのことを信じてるよ。パパの子ども、ルビィ&ピート・ミラー」と書いた一枚の紙切れをパパに渡した。「悪いことしてないよね」ルビィが聞いた。「『逃亡者』と同じだよね」ピートも言った。パパは、手元の紙切れを眺め、口を開いた。「ありがとう。でも人違いだ。おれは君たちが探していた人じゃない。それにハリソン・フォードでもない。ごめん……」
ピートがパパの部屋のトイレに言った隙に、ルビィはパパを容赦のない口調で問い詰めた。「なぜ何度も約束をすっぽかしたの?」「行ったんだ。だけど、お前たちに会うのが恐かった。わからないだろうな」こんなことなら何も知らない方がよかった。ずっとパパを信じてきたのに……。ルビィはトイレから戻ったピートの手をつかんで、言った。「帰ろう」「でも、来たばかりだよ」「聞いたでしょ? この人はパパじゃないの」ピートがパパに聞いた「パパだよね?」「姉さんの言うことが正しい。もう帰ったほうがいい」パパが言った。突然頭上のパームツリーの葉がざわめく。雨が降るらしい。「送っていくよ」。
家に到着したときには、雨になっていた。パパの車のフロントガラスに何か黒いものが張りついている。「ラッキー・フェザー(幸運の羽)だ」パパは手を伸ばして羽をとり、ピートに差し出した。「送ってくれて、ありがと」ピートは羽を受け取った。遠ざかるピックアップを眺めながら、ピートが言った。「パパ、ごめんって言ってたね」トイレを借りたときに、ピートは見たのだ。パパの部屋の壁一面に貼ってあったピンボケの二人の写真を。
家に戻ると昼前だった。ルビィが窓から外をのぞくと、堤防に組んだ足場に下りていくビッグ・スキニーとマウスの姿が目に入った。「すぐ戻るわ」ルビィは家を飛び出した。ピートも後をついてきた。足場に下りたルビィが聞いた。「何をしてるの?」「やっぱりコンドルの目を金色にするんだ」黙々と金色のペンキがついた刷毛を動かすマウスの代わりに、ビッグ・スキニーが答えた。「やめて」ルビィはマウスの手から刷毛を奪い取ろうとした。風がうなり、雨が激しくたたきつけ、二人がもみ合うたびに、はげしく足場が揺れた。「帰ろ!」刷毛を取り戻すのをあきらめたルビィが、ピートの手をひっぱった拍子に、ピートはバランスを失って、ラッキー・フェザーを握りしめたまま、川に転落した。
ピートは浅い水のなかに倒れていた。助けを呼びにいったマウスが戻ってくるまでの時間は永遠にも思われた。だがついにパトカーが到着し、ピートは救急車で病院に運ばれた。ラッキー・フェザーをしっかりと握ったまま。「私のせいだわ」待合室で泣き出したルビィをビッグ・スキニーは懸命になぐさめた。「マウスもあの絵を描いたときに、ちゃんと目の色を調べときゃかったのにな」「あの絵って?」「ピートの誕生日の絵だよ」ビッグ・スキニーの言葉で、ルビィはピートに贈られた絵がマウスの描いたものだったことを悟った。骨折はしたものの、さいわいピートのケガは大事にはいたらなかった。病室へ行くと、パパがいた。ママが連絡したらしい。ピートはパパを見て微笑んだ。「やあ、パパ」それからピートはルビィを見た。「ね、パパだったでしょ?」何か欲しいものがあるかというパパの問いに、ピートはヨーヨーが見たいと答えた。パパはポケットからヨーヨーを取り出し、得意技を披露して見せた。ピートもルビィもうれしくて笑った。「もっと」ピートが言った。
完成披露の日、堤防に書かれた絵は、赤白、そしてブルーの防水布に覆われて今か今かと披露の時を待っていた。スピルバーグは招待しなかったけれど、市長やボランティア、そして学校の友達など、たくさんの人が集まった。まだ目の周りに青あざは残っているものの、ピートも嬉しそうな顔でルビィの隣に座っている。ママ、エド、それからパパも……。「ボンジョルノ! 赤毛のおじょうさん。あなたがヴィンセントのガールフレンド?」ビッグ・スキニーのおばあちゃんが突然ルビィに話しかけた。「ただの友達です」ルビィは頬を染めて答えた。ビッグ・スキニーも真っ赤な顔でルビィにささやいた。「おばあちゃん、耳が遠くてさ。ときどきいろんなことをごっちゃにしちゃうんだ」「べつにいいわよ」ルビィは答えた。「あなたの名前、初めて知った」「君さえよけりゃ、これからおれのことヴィンセントって呼んでもいいよ」「私のことも、ルビィって呼んで」「オーケイ」ビッグ・スキニーはにこっと笑った。マウスがいたずらっぽくルビィに言った。「君さえよけりゃ、僕のまっかなほっぺに……」「やめろ、マウス!」「冗談だよ。君さえよけりゃ、マシュウって呼んでもいいよ」
ロープが切られ、絵が姿を現すと人々の間にどよめきがおこり、会場には拍手と口笛が響き渡った。式典が終了し、客が帰った後も、ビッグ・スキニー、マウス、ピート、そしてルビィは会場に残って、しばらく絵を見つめていた。すばらしい出来栄えだった。
クローズアップ。羽を広げたコンドルの絵。カメラがズームすると、巨大な鳥の金色の目がきらめいて、瞬きをする。コンドルが頭を上げて、羽ばたく。マンモスがのっそりと歩き出し、オオカミやサーベル・タイガーも次々と壁から飛び出して……。
思いついたばかりのシナリオに夢中になっているルビィの耳にパパの声が聞こえた。「早くしないと、映画がはじまるぞ!」「すぐ行く」ルビィは答えた。スピルバーグ監督にはちょっと待ってもらうことにしよう。一分だって遅れるわけにはいかない。
なにしろオープニングが肝心だもの……ね。

(感想)
 映画が大好きな12歳の少女ルビィ。将来は脚本家志望で、いつも自分や失踪した父親を主人公にして、自分の望みどおりのシナリオを作りあげている。彼女にとってシナリオを書くことは、ある意味で現実から逃避する手段でもある。複雑な家庭環境に育ったせいで、少し早く大人になりすぎてしまった感のある、とりすました優等生ルビィが、自分とは正反対の悪がきコンビに巻き込まれて、いろんな体験をし、自分本来の魅力をとりもどしていく様子が、ユーモラスに語られていて楽しい。また、ひらめきで行動する(Electric)ルビィと幼いながらもなかなか賢い弟のピート、この対照的な二人のやりとりが絶妙だ。そこに絡む悪がきコンビが時折ちらりとのぞかせる優しさにもほろりとさせられる。ハリウッド映画のように……とはいかなかったけれど、ひと回り大きくなった四人に用意された、最高にハッピーなエンディングも◎!

(作者略歴)
テキサス生まれ。幼い頃より小説家を目指すが挫折。34歳になって再び小説を書き始めた。これまでに六冊のヤングアダルト作品を書いている。本作品は七冊目。そのうち四冊、『The 25¢ Miracle』『One for All』『The Beggers’Ride』『Earthshine』(いずれも未訳)が『スクール・ライブラリー・ジャーナル』誌のベスト・ブックス・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。『Earthshine』は1995年ボストングローブ・ホーンブックの次点にもなった。すでに成人した三人の息子の母でもあり、現在は夫の俳優ケビン・クーニィ氏と共にカリフォルニア州シャーマン・オークスに住む。


last updated 2004/3/8