■2002年
7月号 『快読100万語! ペーパーバックへの道』『不美人論』『お洋服の力』
8月号 『しにがみのショートケーキ』『どうぶつニュースの時間2』
『えっちゃんの森』『そして 犬は走ってゆきます』
8月号 (幻の原稿編)
『ブルーイッシュ』『時計物語(第一回思い出の腕時計エッセイ大賞作品集)』
『どうぶつニュースの時間2』『えっちゃんの森』『そして 犬は走ってゆきます』
9月号 『毒身温泉』『世界の終わり』『にぎやかな湾に背負われた船』『爆発道祖神』
10月号 『おかゆ』『修道院のレシピ』『きょうのごはんはタイ料理』『完全自炊主義』
11月号 『こころの作法』『デジタルを哲学する』『フィクションか歴史か』『中庸、ときどきラディカル』『臨機応答・変問自在2』『ノーム・チョムスキー』
12月号 『銭湯読本』『横浜おでかけガイドブック』『NO IDEA』『猫の建築家』『別冊太陽・白磁』
■2003年
1月号 『ペンキや』『人形作家』『牛乳の作法』『インターネット術語集 II』『哲学ってなんだ』
2月号 『お墓曼陀羅』『東京お墓散歩』『釈迦』『「死の舞踏」への旅』『ロベルト・スッコ』
3月号 『中国茶をもっと楽しむ本』『中国茶で楽しむ十二か月』『中国茶・五感の世界』『アジアのお茶を楽しむ』『台湾茶の愉しみ方』『中国茶 風雅の裏側』
4月号 『ゾンビ映画大事典』『アジア映画』『ムービー・ラビリンス』『現代・日本・映画』『イラン映画をみに行こう』『怪獣はなぜ日本を襲うのか?』『勝手にビデオ』
5月号 『チャペックの本棚:ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン』『チェコアニメの巨匠たち』『ボヴァリー夫人』『まよなか:冬野さほ最新作品集』『Daydream Nation』
6月号 『愛について』『現代日本の詩歌』『現代日本の詩歌』『活発な暗闇』『南京玉 娘ふさえ、三歳の言葉の記録』『車掌』
7月号 『寺山修司名言集』『踊りたいけど踊れない』『宇野亜喜良60年代ポスター集』『上海異人娼館』『撮られた暁の女』
8月号 『さかさりんご通りのはるなつあきふゆごはん』『ヴァンパイアラプソディー』『GO TO the heavens』『DREAM DREAM』『ぼくだけのこと』『おひさまパン』
9月号 『バイリンガル四行連詩集』『蟻の時代II』『ドルチェ・ヴィータ』『しあわせになりたい研究』『運命ではなく』
10月号 『光ってみえるもの、あれは』『ティッシュの鉄人』『猫殺しマギー』『ジャンピング☆ベイビー』
『「オノ・ヨーコの復権」〈ARTiT〉創刊号』『「〈愛〉の切断、〈希望〉の拡散」「美術手帖」』『「マグロ経済学」〈Design News〉』『「色彩とフォントの相互作用」「アイデア」』『「フローリア・シジスモンディ」「夜想」復刊』
『壜の中の鳥』『仮名手本忠臣蔵』『ゆきのともだち』『5ひきの小オニがきめたこと』『カプチーヌ』『ぼくはタイガースだ』
2002年7月号
1. 英会話学校に通っても英語力がつくわけではないのです。英会話学校で身につく最も大きなものは、いま持っている英語の知識を駆使して、いかに図々しく話せるようになるかという「度胸」でしょう。
『快読100万語! ペーパーバックへの道』酒井邦秀著 ちくま学芸文庫 2002年6月10日
2. 富岡多恵子氏の随筆「化粧」は、化粧についての別の側面を考えさせてくれる・・・何故化粧をするのか、その答えは「女はきたない存在だから」には驚かされた・・・「女はきたない」、そこが出発点であればなんだか気が楽になるではないか。美容整形に興味を抱き同時に恐れ、写真の写りに一喜一憂し、思わぬほめことばに浮かれ、現実をかえりみて愕然とする。そんな、あらゆる女は実は不美人なのである。
『不美人論』陶智子著 平凡社新書 2002年5月20日
3. ユニクロが好きっていう人も、正確には「同じ千九百円ならやっぱユニクロでしょう」と言いたいんだと思う。だってさ、千九百円でシャネルのフリースとユニクロのフリースが並んでたらどっちを買う? それでもユニクロだって言える? このやる気のなさに反発を感じながらも、ユニクロで手を打ってしまうその気持ち、わからないでもない。いつわかるかというと、自分の狭い部屋に戻ってきて、最高にかわいい超お気に入りの自慢のお洋服を脱いだ瞬間だ。
『お洋服の力』高橋直子著 毎日新聞社 2002年5月1日
2002年8月号
1. 男は にやりと わらって、たちあがった。そしていきなり ぴょーんと とびあがると、空中で いっかいてんして、はかいしの 上に おりたった。男の すがたは おそろしい しにがみに かわっていた。「だったらどうするんだ」「こうするんだ!」キャべたまたんていは あたまの はっぱを 一まい べりっと ひきはがして、しにがみ めがけて なげつけた。
『しにがみのショートケーキ』三田村信行・作 宮本えつよし・絵 金の星社 2002年7月
2. ドングリをお金として貯金することで、世界的に有名なキツツキ銀行が、本日とつぜん倒産しました。銀行の前には、ドングリをあずけていたひとたちが心配顔であつまってきています。
『どうぶつニュースの時間2』あべ弘士著 理論社 2002年6月
3. 「えっちゃん、いま、だれと はなしているの?」「ふうせんの うめだえつこさんよう」・・・「ふうせんの うめだえつこさんじゃなくて、うめだえつこさん――つまり、えっちゃんの ふうせんでしょう?」「ちがうのよ、ミュウ。マジックペンで、名まえをかいたときにわかったの。これは、うめだえつこのふうせんじゃなくて、ふうせんのうめだえつこさんだって」
『えっちゃんの森』あまんきみこ著 フレーベル館 2002年6月
4. 三角形の面積がでました。底辺×高さ÷2というわけがとてもよくわかりました。なんだかちょっといい感じです。三角形はいいなと思いました。犬が走ってゆきます。
『そして 犬は走ってゆきます』五味太郎著 ブロンズ新社 2002年6月25日
2002年8月号(幻の原稿編)
(この引用は、没になったもので、雑誌に載ったのは前のものです)
1. お母さん、あたしのブルーイッシュはあのBlewish(黒人Blackとユダヤ人Jewishの混血という意味)じゃないの。あたしのブルーイッシュは、Bluish。顔が青いから。ドリーニーはいじわるで言ってるんじゃないわ。
『ブルーイッシュ』ヴァージニア・ハミルトン著 片岡しのぶ訳 あすなろ書房 2002年7月20日
2. 「バンッ」と部屋のドアが空き、走ってきたママは私を抱きしめた。ママが泣くと私も泣く。じきにママが笑いだして、私も笑いだした……なぜ私がサンタってわかったかは、包み紙が近所のだんご屋のものだったかららしい。
『時計物語(第一回思い出の腕時計エッセイ大賞作品集)』ポプラ社 2002年6月
3. ドングリをお金として貯金することで、世界的に有名なキツツキ銀行が、本日とつぜん倒産しました。銀行の前には、ドングリをあずけていたひとたちが心配顔であつまってきています。
『どうぶつニュースの時間2』あべ弘士著 理論社 2002年6月
4. マジックペンで、名まえをかいたときにわかったの。これは、うめだえつこのふうせんじゃなくて、ふうせんのうめだえつこさんだって
『えっちゃんの森』あまんきみこ著 フレーベル館 2002年6月
5. 三角形の面積がでました。底辺×高さ÷2というわけがとてもよくわかりました。なんだかちょっといい感じです。三角形はいいなと思いました。犬が走ってゆきます。
『そして 犬は走ってゆきます』五味太郎著 ブロンズ新社 2002年6月25日
2002年9月号
1. 水面の光の粒のように絶え間なく色と明るさを変えて瞬く葉叢を眺めているうちに、ワタナベはまどろんできた。欅からはひんやりした酸素が、風となって吹き降りてくる・・・?燭の炎は激しく揺らめきながらよく燃え、やがて突風にあおられて消えた・・・眠っているワタナベのハンモックも揺れる。そして、「おい」という水の中みたいにくぐもった叫び声とともに、一陣の風がハンモックをめくりあげ、ワタナベを地面にぶちまけた。
『毒身温泉』 星野智幸著 講談社 2002年7月20日
2. 恋する二十歳の時、私は父親に質問した。「女性にとって大切なものって、何?」「肌だろ、触った時の」「優しさ」「思いやり」という答えを期待してハズされたのに、ますます父を好きになった。
『世界の終わり』 宮崎誉子著 リトル・モア 2002年7月31日
3. 時計はよく止まった。気がつくと沈黙が食事をしているトシコと叔父の背後を通り抜けて家のなかから庭にまで出ていこうとしていた・・・庭にまで出てきた沈黙と黙ってしゃべっていた若者たちは、沈黙と話すのをやめてその料理を食べた。
『にぎやかな湾に背負われた船』 小野正嗣著 朝日新聞社 2002年7月1日
4. 町にはなんとたくさんの孤独に輝く魂が散らばっているのだろう。それらは、耳を聾せんばかりの町のノイズと獣の宴会を想起するような様々の飯の匂いのあいだとあいだをすり抜けて旋回、長く尾を引いて地面に激突して爆死するのであった。
『爆発道祖神』 町田康著 角川書店 2002年7月5日
2002年10月号
1. 小さめのそば猪口などに卵黄を1個ずつ落とし、大さじ1杯ずつのしょうゆを注ぎ、半日ほど漬けておく・・・鍋に分量の水と米を入れ、ふたをして火にかける・・・白粥を碗に盛り、しょうゆ漬け卵黄を1個ずつのせる(琥珀粥)
『おかゆ』福田浩・山本豊著 柴田書店 2002年8月10日
2. にんじんを薄切りにして、熱したバター半量で数分間炒める。ヒタヒタになるまで熱湯を注ぎ、塩、コショウをする。ふたをして、にんじんが柔らかくなるまで弱火で煮る。裏ごししてピュレ状にするか、ミキサーにかける。残りのバターを熱して小麦粉を加え、温めたブイヨンを注ぎ、にんじんのピュレを加える。沸騰してきたら米を入れ、20分ほど煮る(お米のクレシー風ポタージュ)
『修道院のレシピ』猪本典子著 朝日出版社 2002年7月24日
3. 鍋にサラダ油をひき、にんにくを弱火で炒める。その中にあさりを入れて少し炒め、紹興酒を加えふたをし、あさりの口が開くまで蒸し煮にする。鶏ガラスープとカッコ内の材料を入れて味を調える。ご飯を入れて一煮立ちしたら火を止めてから黄にらを入れる(あさりのおかゆ)
『きょうのごはんはタイ料理』氏家アマラー昭子著 2002年7月15日
4. 鍋にご飯と牛乳を入れ、弱火にかけて煮る。ご飯がとろりとやわらかくなってきたら、固形スープの素を手でほぐしたものとバターを加えて混ぜ、少し煮てからパルメザンチーズも加え混ぜる(簡単リゾット)
『完全自炊主義』千葉真知子著 文化出版局 2002年9月2日
2002年11月号
1. 脳死という名の観念遊戯が臓器移植の技術と並んで語られるようになったとき、その毛むくじゃらの手の正体を突然眼前につきつけられたような気分になった。許せぬ、と思った。死の作法が、それによってとどめを刺されるだろうと直覚したからだ。
『こころの作法』山折哲雄著 中公新書 2002年9月25日
2. 自己が排除しようとする他者によって、自己を維持するという臓器移植の二律背反的性格こそ、悲しみと喜び、絶望と期待などの相反するベクトルが発生する根源であるようにさえ思われる。
『デジタルを哲学する』黒崎政男著 PHP新書 2002年9月27日
3. 通勤電車のなかで月刊「連続殺人鬼」を読むのは、ついに「人生」を生きることなく暴走しつづけた存在への興味、逸脱した魂への関心、もっと云えば人間の潜在的な可能性への覗き見趣味なのかもしれない。
『フィクションか歴史か』(穂村弘著)(岩波講座・文学9)の月報から。2002年9月20日
4. もし今後生まれる者たちの「機会」をなるべく平等にしたい、と考えるなら、遺伝的に考えても環境的に考えても、低学歴層、低所得層の子作りは規制するのが筋というものだろう。ここで「子供を作る権利」と「生まれる子供が平等な機会を与えられる権利」とは明らかに矛盾することになる。
『中庸、ときどきラディカル』小谷野敦著 筑摩書房 2002年9月25日
5. Q:人間がこのまま進化していったらどのような生物もしくは「もの」になるのでしょうか? 私は怖いです A:人間って今のままでも十分に恐いですからね。
『臨機応答・変問自在2』森博嗣著 集英社新書 2002年9月22日
6. 世界貿易センターが、いまグラウンド・ゼロ(爆心地)と呼ばれています。広島と長崎で原爆を経験した日本人が「グラウンド・ゼロ」という言葉を聞くと、複雑な思いにとらわれるそうですが? A:この問題に関しておもしろいと思うのは、ほとんど誰もそれについて考えないということですね・・・アメリカの国民はまったく気づいていないのです。
『ノーム・チョムスキー』ノーム・チョムスキー著 リトル・モア 2002年9月16日
2002年12月号
1. 日本の入浴文化が欧米のそれと大きく異なるのは、たんに身体の汚れを落とす、というだけでなく、浮き世の垢を落とすという点に重点をおいていることにあります。
『銭湯読本』Sento Style推進委員会編 アーティストハウス/角川書店 2002年11月6日
2. 恋愛が人生を左右するように、ここでは「あこがれ=おでかけ」が、人生での観光の広さや深さを指し示している。よって、いまだかってないおでかけの周囲周辺に足を伸ばし……
『横浜おでかけガイドブック』沼田元気著 青山出版社 2002年9月25日
3. 水丸さんの描く円と、和田さんの描く円とでは微妙に(しかし決定的に)違っているはずだし、僕にはその違いをたぶんすぐに見分けられることができると思う。それはたとえばコールマン・ホーキンズとレスター・ヤングのテナーサックスの音を4小節聴けばすぐに言い当てられるようなものだ。
『NO IDEA』安西水丸・和田誠著/絵 村上春樹/エッセイ 金の星社 2002年10月
4. 何故なら、造ることは、立ち向かうことではなく、造ることは、何かを許すことなのだと、と感じているからだった。我々が許すべき「形」が、つまり「美」だろうか? 「形」を眺めることで、少しずつ優しくなれるかもしれない。それが我々が造るべき「形」の「機能」ではないだろうか。
『猫の建築家』森博嗣著 佐久間真人画 光文社 2002年10月25日
5. 白色は、色彩の中で一番最初の色であり、どの色をも引き立たせる役目を果たしている。白には主張はない。主張はないのだけれど、未完と同時に完成を意味し、完成された白の上に立つ色は何もない……この本は、これまで高価に扱われてきた物や、新たに加わった安物までも、みな、同一線上に置き、同じスポットを当てて見せている。
『別冊太陽・白磁』勝見充男監修 平凡社 2002年11月25日
2003年1月号
1. それは看板でした あれは見苦しいものだ……それで おかあさんの好きなエゾマツの森の真ん中にまで 看板のための足場が組まれたとき 心が重く沈んだのです ところが翌日 そこに現れた看板に おかあさんの目は釘づけになりました 汽車はエゾマツの森をずっと見渡せる土手の上を走っていました その真ん中にまるで小さな宝石のようにきらきら光る湖がみえたのです よく見ると清酒の看板でした
『ペンキや』作・梨木果歩 絵・出久根育 理論社 2002年12月
2. のちに人形を作るようになったのは、自分のなかに欠乏しているものがあるからではないかと思います。僕は普通の子供たちのような、家庭的な愛を受けた記憶がありません。人間的なリアルさに惹かれるのは、こうした出発点があるからではないでしょうか。ただし、そのリアルさには人工的な、ひんやりとした感じがつきまといます。
『人形作家』四谷シモン著 講談社現代新書 11月20日
3. 俳優はしばしば、戯曲の言葉に身体を押し込もうとし、押し込もうとすれば身体は硬直する。もっとやわらかに言葉の中を生きられないかと私は俳優たちに常に求める。
『牛乳の作法』宮沢章夫著 筑摩書房 2002年12月5日
4. サイバースペースの中にさまよい出るのではなく、生身の肉体を持った人間として現実世界で生活しつつ、そのためにこそサイバースペースの長所をうまく生かし、あわせてそのマイナス面、危険な側面を極力なくす努力を……
『インターネット術語集 II』矢野直明著 2002年11月20日
5. 文学は……造化の神が人間に与えた美しい果実のなる樹だ。だが、そこには神のつけた立て札が立っていて、「ほんとうに必要とする人だけがこの果実を取るべし」と書いてある。
『哲学ってなんだ』竹田青嗣著 岩波ジュニア新書 2002年11月20日
2003年2月号
1. 通称山谷堀という小さな水路は、江戸時代の愛憎の濁世を凝縮したような濁り川だったようです。山谷堀は……性の巨大マーケット新吉原の入り口に繋がり、その先には、遊び捨てられた遊女が葬られた、通称投込み寺の浄閑寺があり、更には江戸中の重罪人が処刑され、梟首された小塚原の処刑場があったのです。
『お墓曼陀羅』池田亮二著 新風舎 2002年11月25日
2. 本堂裏の墓域には、遊女を供養する新吉原総霊塔があり、「生まれては苦界、死しては浄閑寺」の句が刻まれている。遊女を悼んだ永井荷風の詩碑と筆塚、昭和二十五年五月三十日に銀座通りで占領軍のシープにひかれて死去した落語家三遊亭歌笑の「三遊亭歌笑」(武者小路実篤書)がある。
『東京お墓散歩』工藤寛正著 河出書房新社 2002年10月30日
3. ――アーナンダよ、わかったか、私の最後の旅は、どこの涯てにか、野垂れ死の死場所を需め、そこにたどりつくだけが目的の旅だったということが――
『釈迦』瀬戸内寂聴著 新潮社 2002年11月15日
4. 最古とされる死の舞踏がパリに生まれたことの意味は一考に値する。この町は言うまでもなくヨーロッパ文化の中心地である。しかも死の舞踏はそのパリも中心部にあったらしい。それは死という不可視な物を目に見える形にする装置であり、キリスト教会の「死のショーウィンドウ」とは読めないか。聖職者が死を説くに当たって、方法的には説教に加えて、図像があった。
『「死の舞踏」への旅』藤代幸一著 八坂書房 2002年11月25日
5. ロベルトの墓は、木の十字架を立てた簡素な土の小山だが、いつも花がいっぱいに供えられている。十字架には、鑑識課の撮ったロベルトの身元確認写真が一枚留められていた。
『ロベルト・スッコ』パスカル・フロマン著 太田出版 2003年2月28日
2003年3月号
1. 日本では中国茶と言うと烏龍茶をイメージしますが、中国本土のお茶の中でもっとも愛されているのは緑茶で、1000種類以上あると言われている中国茶のうち全生産量の約7割を占めています。
『中国茶をもっと楽しむ本』 新名庸子監修 ナツメ社 \1,200(本体) 2003年2月10日
2. ほんのわずかなお茶の葉を点じて、春をいただく。その茶碗の中にひろがる春の景色は無限です。その春の中に入っていきたい心地さえします。挿花は竹。竹は切るとうつくしい空白があらわれます。これは「虚」。何ものにもとらわれない、自由な心境をあらわすのです。
『中国茶で楽しむ十二か月』 黄安希著 平凡社 \1,800(本体) 2003年2月15日
3. 信じられない光景を目にした。地元の人は茶滓を指で撮んで食べているではないか。私も真似して口に入れてみた。茶の葉は新芽を使っているのに、湯に浸しても形が崩れず、噛んでみると少し苦い味がした。後で聞いた話では、毛沢東も茶滓を食べる習慣があったという。
『中国茶・五感の世界』孔令敬著 日本放送出版協会 \870(本体) 2002年12月25日
4. タイ北部には……「噛み茶」というお茶を飲む習慣の民族がいます。茶葉を漬け物のようにしたものと一緒に、塩、砂糖、ショウガやナッツなどを混ぜて噛みながらお茶を飲むのだそうです。
『アジアのお茶を楽しむ』 作者監修者名なし 新星出版社 \1,400(本体) 2002年12月25日
5. [白雲豆腐の作り方] 1. 椎茸、にんじんをみじん切りにする。2. 鍋に油をひき、1 とショウガ、ひき肉、ジャスミン茶を手早く炒める。3. 適当な大きさに切った豆腐と水を 2 に加え、豆腐に味が染み込むまで弱火で煮て、塩で味を整える。
『台湾茶の愉しみ方』周君怡著 河井眞利子訳 PHPエル新書 \950 2002年11月20日
6. 古代から塩もお茶も政治的な産物ではあるが、お茶は典雅な一面をあわせ持つだけに、したたかであり、嗜好品であるゆえにマーケットはトリッキーだ。大昔から、お茶は権力と密接に結びついてきた……
『中国茶 風雅の裏側』平野久美子著 文春新書 \700 2003年1月
2003年4月号
1. 一本の映画だけで三回も目が抉られるなんて、やっぱりフルチは凄いんだなあ。フルチは自信を持って語る。「目玉は最初に潰すべきだ。なぜなら、醜いものを見過ぎてきたからである」
『ゾンビ映画大事典』 伊東美和編著 洋泉社 2003年3月19日
2. われわれの前に存在しているのはアジア映画である。この存在は圧倒的なものだ。だが、それはアジア映画である前に、まず映画なのであって、映画には面白いものとつまらないものの二つしかない。
『アジア映画』 四方田犬彦編 作品社 \3800(本体) 2003年2月25日
3. なぜ登場人物は観客のほうへ視線を向けないのか/映画のセリフと演劇のセリフはどう違うのか/トム・クルーズにはまり役がないのはなぜか/友情出演ではギャラがでないのか/史上最大の失敗作は何か
『ムービー・ラビリンス』 杉原賢彦+編集部編 フィルムアート社 \2000(本体) 2003年2月5日
4. 母国語の映画を見ることは、単に「おもしろい」と「つまらない」の二つに割り切ることのできない、複雑な解釈のアクロバットを見る者に要求するものであり、それこそが映画の本当の凄みを享受するということなのだと、私は信じて疑わない。
『現代・日本・映画』 田中英司著 河出書房新社 \1500(本体) 2003年1月30日
5. 単純に懐かしいな、って。何が懐かしいのかよくわからないんだけど、懐かしい映画だなって。それは……格好よく言えば共通の懐かしさ? 別に自分の過去とかではなくて不思議な懐かしさ。
『イラン映画をみに行こう』 ブルースインターアクションズ編集・発行 \1800 2002年12月1日
6. ところで怪獣に惹かれた文学者は三島だけではなかった……周知のように『モスラ』に至っては、その原作『発光妖精とモスラ』は、中村真一郎・福永武彦・堀田善衛の共作なのである。
『怪獣はなぜ日本を襲うのか?』 長山靖生著 筑摩書房 \1900(本体) 2002年11月25日
7. 「ギフト」ただ驚かすためだけのホラーとは一線を画している。幻想的でありながら、現実的なサスペンス味あり。それにしてもブランシェットがいい。玄関のところで転ぶシーン、迫真の下着見え。
『勝手にビデオ』 石川三千花著 講談社 \2800(本体) 2002年10月23日
2003年5月号
1. ヨゼフの表紙について語るときは……特に作品が500と限られていれば、その作品の分析もほぼ終わっており、シュールリアリズム的なもの、フォークロアの要求の強いもの、面を基本にしたもの、記号的なもの、絵画的なもの、作品の文中に踏み込んだものと分類され、それが統合的だといわれ、作品を見ながらそれに同意しながらうなずくことができる。
『チャペックの本棚:ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン』 \2500(本体) PIE Books
2. ゼマンは既存の視覚的可能性の境界を横断し、チェコ映画に新たな形態学を、そして生気に満ちたユーモアと人間的な精神を与えた。しかしゼマンの作品はこのように刺激を与えたものの、この唯一無二の想像力とオリジナリティを引き継ぐ者はいまだ見つかっていない。
『チェコアニメの巨匠たち』 \1300(本体) エスクァイア・マガジン・ジャパン
3. なぜスピリチュアルに惹かれあうだけなら、恋のまねごと。/フィジカルに求めあうのも、恋のまねごと。/惹かれあい求めあって、ついに恋はまねごとでなくなる。/彼らははじめて恋をしたのである。
『ボヴァリー夫人』フローベール著 姫野カオルコ文 木村タカヒロ絵 \1900(本体)角川書店
4. 母国語の映画を見ることは、単に「おもしろい」と「つまらない」の二つに割り切ることのできない、複雑な解釈のアクロバットを見る者に要求するものであり、それこそが映画の本当の凄みを享受するということなのだと、私は信じて疑わない。
『現代・日本・映画』 田中英司著 河出書房新社 \1500(本体) 2003年1月30日
5. ポ・ポ・ピ きみにでんわしなくちゃ きみんちの でんわばんごう なんばん だった?/どうしてもきみんちにつながらない……。/いつになったらきみにあえるの? どうしよう? どうしよう?やっとあえたとおもったのに……きみのにせものだったなんて!/あっ、きみ! きみ!@ゴチ@
『まよなか:冬野さほ最新作品集』冬野さほ \2000(本体) ブルース・インターアクションズ
6. 2、3冊も描いていると自分の思考パターンとか嗜好パターンとかがわかってくる。いくら「なんでもいい」といっても「本当になんでもいい」というわけじゃあない。そうこうして「具象だけど抽象」という自分ならではの表現方法に気付くことになった。「思わせぶり」で「なんか意味深な感じ。わけわかんないけど」と見る人に感じさせる絵、それを目指すことにしたわけです。
『Daydream Nation』長崎訓子 \2600(本体) Parco出版
2003年6月号
1. ……生きようとするものを岸の方へいざないながら、ひとの中に潮が満ちる ひとの中に海がある 月の呼び 月のめぐるまま ひとの中に終わらない暦がある……
『愛について』 谷川俊太郎 \1800(本体) 新宿書房
2. 美空ひばりさんはこのような日本人に最大限訴える歌い方をしている。たとえば「ひばりの佐渡情話」に特徴的なのだが、高い声で伸ばす部分がある。音に過ぎないのだけれど、ひばりは言葉として歌い、日本の聴衆は言葉として聴いている。美空ひばりさんの歌い声は単なる音ではなく、表面に表れない意味がいっぱいに詰まっている。
『現代日本の詩歌』 吉本隆明 \1500(本体) 毎日新聞社
3. 肌をなでる 青い風は去った/信じられる唯一つの事実のために/深夜 にじむ脂汗をぬぐひ/うつくしい匕首を研いであそぶ/いちまいの皮膚の下に息づく死を/はらわたのやうにとり出して 煮る
『続続・吉原幸子詩集』 吉原幸子 \1165(本体) 思潮社
4. ブローティガンは、動く詩だと思う。彼の眼が詩なら手も詩、心臓も詩なのだ。たぶん。
『活発な暗闇』 江國香織編 \1600 いそっぷ社
5. 餅搗キシマセウ、/モノサシデ、/ベッタラコ、ベッタラコ、/イタイイタイテイフウ、/餅ツキスンダ、アゲマセウカ。
『南京玉 娘ふさえ、三歳の言葉の記録』 金子みず \1200(本体) JULA出版局
6. 友人の自慢である第15代チャンピオンのマンデリンに、私の秘密兵器トアルコトラジャが挑戦した試合は素晴らしい取り組みだった。力と力、技と技、スピードとスピード、白熱の戦いの果てに、ビートルたちはついに互いに互いの角で貫かれた、瞬間、差し違えた二匹はさらさらさらさらと崩れ、初めての、泣きたくなるような香がたちのぼった。/おお、ブレンド、と誰かが言った。
『車掌』穂村弘×寺田克也 \1300(本体) ヒヨコ舎・星雲社
2003年7月号
1.神を殺して、仏を売って、何の南があるものか。地獄。煉獄。水しぶき。歴史を書くのは右の手で、舵をとるのは左手だ!(『疫病流行記』)
『寺山修司名言集』 \1500(本体) PARCO出版
2. 今日 おぼえた歌は/今日 うたってしまいました/うたい終わったら/すっかり忘れてしまいました//古い小さな雨傘さして/忘れた歌を捨てにゆき/しばらく川を見ていました/雨のふる日の川はさみしい/忘れた歌もなんだかさみしい
『踊りたいけど踊れない』 寺山修司+宇野亜喜良 \1500(本体) アートン
3. 宇野亜喜良はジル・ド・レ伯爵の末裔である。彼の「青ひげの城」には、まだ画かれない子供の死体がどっさりとかくしてある。/宇野亜喜良は記憶喪失のカミサマトンボである。とび出した複眼に無がうつっている(寺山修司)
『宇野亜喜良60年代ポスター集』 \2900(本体) ブルースインターアクションズ
4. 「愛染姐さんの口ぐせだったセリフ……」「川のなかからピアノが聞こえる」「ひょっとしてこの男は……」「ピアノが……」「川のなかから!」・〈愛染は「真実」を連れて川の底から浮き上がった〉
『上海異人娼館』寺山修司監督・上村一夫激画 \2800(本体) テラヤマ・ワールド
5. 「ちょうどいいお子さんです」/普通ならば「男の子です」とか「女の子です」とか、そんなふうに言われるものである。人がオギャアと生まれた時というものは。/しかし、目安さやかの場合は違った。/とにかく助産婦が初めて彼女を手にしたその感じ……そのすべてが彼女を取り出した助産婦の二0年のキャリアをもってしても「ちょうどいい」としか形容できなかった……二二歳の時、さやかは引っ越しをした。なんとなく引っ越しの段ボールに入ってみたらなんだかものすごく「ちょうどよかった」。/その時、さやかは初めて自覚したのである。/あたし、なんだか体の芯から「ちょうどいい」女だ。
『撮られた暁の女』 松尾スズキ・監督脚本 大橋仁・キャメラ \2476(本体) 扶桑社
2003年8月号
1. 「過去の記憶がお前に歓びを与えるときにのみ、過去について考えよ。」それはヘンクツで有名な古本屋のご主人でした。「人生にはスパイスが必要なんじゃ」
『さかさりんご通りのはるなつあきふゆごはん』さかさりんご通り作 やまさききよえ料理 \1700(本体) 講談社
2. なんとこの町の郊外には、このアンブラスという城があって、そこにはドラキュラ(ウラド・ツェペシュ)の肖像画があるとのことで、ひらい君のスケジュールには、ドラキュラゆかりの訪問先として、目的ルートに加えていたという……この絵は、本物だとされているが、ひらい君はこの絵を見るなり、「これはニセモノだ」というのだった。とにかく、そう思うのだそうな。し、しかしねぇ(涙マーク)
『ヴァンパイアラプソディー』ひらいたかこ+磯田和一 \1600(本体)東京創元社
3. ボクは青春をひきずっている。自分で言うのも恥ずかしいが、そういうことだ。ボクの背中は淋しいと人はよくいう。ぼく自身もそう思うのだが、やはり内面の孤独と青春の挫折はかくしきれないものなのか。ひと皮むいたところで現れるものは甘さとすっぱさだけだ。(INDIAN ORANGE)
『GO TO the heavens』岡田露愁 \3600(本体) アンドリュース・クリエイティヴ
4. 妻が大型自動車を運転して水田の畦道を走る。車輪は大きく泥田にはみ出して、植えたばかりのイネの苗を踏んで倒してしまう。イネの苗が倒れた泥の中から、純白のプードルがぴょんと跳び出して、泥を跳ねながら駆けて行く。僕らの仲間らしい。(1994.2.9 神戸・北野)
『DREAM DREAM』寺門孝之 \2500(本体) ブルース・インターアクションズ
5. にひゃくごじゅうににんの なかで、ぼくだけ、うんどうかいの へいかいしきで、ひんけつを おこして、たおれた。これは、かなり めんぼくない ぼくだけの こと。 『ぼくだけのこと』森絵都作 スギヤマカナヨ絵 \1200(本体) 理論社
6. このパンやさんも おひさまが こいしくて……「おひさまあじの とくべつパンを やきましょう!」
『おひさまパン』エリサ・クレヴェン作絵 江國香織訳 \1300(本体) 金の星社
2003年9月号
1. 血は流され続けるだろう/貧血した蟻が赤い砂漠の/狂気の果実を食いつくし/新たな創世記が始まるまで(石原武)
『バイリンガル四行連詩集』木島始・石原武・新延拳(編) \3200(本体) 土曜美術社
2. 歩兵隊第一列、第二列は、ベル・オ・カン軍、ゼディ・ベイ・ナカン軍、アスコレイン軍、白アリ軍の堂々たる行進である。続く、第三、第四列には、無敵の砲兵アリが並んでいる。
『蟻の時代II』ベルナール・ウェルベル、小中陽太郎・森山隆訳 \781(本体) 角川文庫
3. 伏せていた長いまつげをあげると/彼女が/めまいがした。/私は/掴まえようとして腕を延ばしたら/青としかいいようのない青いろのドレスがひとひら/手の中に残る(帝国主義)
『ドルチェ・ヴィータ』貞奴 \2200(本体) 青山出版社
4. 夏掛けに鶴乱れ飛ぶあかときのいんふるえんざは外国の風邪/あたしいま、もうれつにしたいことがあるの。/やさしくてあまくくるしいあのゆめは柑橘類の戦争だった
『回転ドアは、順番に』穂村弘+東直子 \1300(本体) 全日出版
5. ですから競走、いや競争をいどみます。/お話の原典ではウサギから足の遅いことをなじられたカメのほうが「それならおまえとかけくらべ」と競走を提案したように語られていますが、それは単なるかけ合いのあやで、実際はウサギの挑発、カメがその生まれつきのキャパシティーで、ただそれに応じたということです(「ウサギとカメ」)
『しあわせになりたい研究』五味太郎 \1200(本体) 大和書房
6. 僕にとっては思い出として、たぶんその体験がいちばん深く残ったものなのに、誰もが嫌な出来事や〈恐ろしいこと〉しか訊ねてくれない。そうだ、いずれ次の機会に誰かに質問されたら、そのこと、強制収容所における幸せについて、話す必要がある。
『運命ではなく』ケルテース・イムレ 岩崎悦子訳 \1900(本体) 国書刊行会
2003年10月号
1. 「かいしょうって、なに」幼い僕が聞くと、祖母はにこにこしながら、/「俗物性を伴う精神的膂力」と答えた。/「その、ぞくぶつせいとかって、いいもの、わるいもの」/「物事の白黒はね、簡単にはつけられないものなのよ、翠くん」/さっぱりわからない。今でも僕は、祖母が甲斐性のある人間を好んでいるのか、それともはんたいに甲斐性のある人間というものを半分馬鹿にしているのか、判断がつかない。
『光ってみえるもの、あれは』川上弘美著 \1500(本体) 中央公論新社
2. 部屋の上座では高杉がしこたま酔っている。脱げー、脱げーと、踊っている芸者に向かって奇声を上げている。その横で西郷は、こいつ完全に酔っぱらっているからと女将に苦笑いしながら謝っている。肝心の龍馬も隅の方で若い芸者といちゃついている……こんなことで本当に尊皇攘夷は果たせるのだろうか。少し不安になってくる。そこへいきなり襖があいて、体操選手の一団がとびこんでくる。
『ティッシュの鉄人』高階杞一著 \1900(本体) 詩学社
3. 「いいな。赤ちゃん」/「お前だって、赤ちゃんじゃねえか」/「そんなことないぜ。立派なレディだぜ」/俺はその場でくるっと回った。風がさっと吹きこんできて、髪が一度にふわっと揺れる。/「なにしてんだ」/「レディ」/「熱病」はよっこらせ、と椅子から立ちあがった。/「そろそろ夕飯のしたくをしねえとな」/今、昼飯食ったばかりじゃねえか!/しかも、ステーキを!
『猫殺しマギー』千木良悠子著 \1300 産業編集センター
4. 「……あなたが切ってあげたの? もしかして、料理用の鋏とか使って?」/──うん。ぼくが切ったよ。でも、料理用の鋏なんて洒落たものは我が家にはないから、出刃包丁を使ったんだ。/真顔でそう答えるウィリーを前にして、鹿の子が絶句していると、/──なんて冗談だけど、紙切り鋏で。これは本当。/ウィリーはさらりと言った。鹿の子は再び眩暈に襲われた。/「うそ! 紙切り鋏? そんなもので臍の緒って切れるの?」/──もちろん、切れるよ。楽勝だよ。別にサラミじゃないんだからさ。
『ジャンピング☆ベイビー』野中柊著 \1300(本体) 新潮社
2003年11月号 [NEW]
1. 絶対に諦めないということです。私が思うには人類っていうのは強い生き物です。結局大きなユートピアをつくるために、いま苦労していると思います。
「オノ・ヨーコの復権」〈ARTiT〉創刊号 リアルシティーズ \952(本体)
2. 〈9・11〉のあとの一年間の政治的変化を追ったために、私はひどく傷つきやすくなった──そよ風が吹いても涙が出るといったように。/それでも私は自分の信念を抱いて歩みつづけたが、それはまるで私の信じていたものの全てが瞬く間に溶けていってしまうような感覚だった。
「〈愛〉の切断、〈希望〉の拡散」「美術手帖」 美術出版社 \1524(本体)
3. おばあちゃんの集中力はすごかった……できあがったぼたもちは、ひらたく丸く、それがぽてぽてと山に積まれていく。そのすがたは絶対的にぼたもちであって、たしかにおはぎではない。
「おはぎとぼたもち」〈ku:nel〉創刊号 マガジンハウス \648 (本体)
4. その最もたるモノが食の文化でしょう/海老で鯛を釣るという言葉がありますが、もし、高級マグロで釣ったオネエさんがホンマグロだったら、経済学的には収支合計ゼロと言う事になるのでしょうか?
「マグロ経済学」〈Design News〉 日本産業デザイン振興会 \1800(本体)
5. アドビ社のフーツラ体はおもしろい特徴を持っている書体である。「abdpq」を見てみると、「a」の形が「bdpq」に共通して使用されている。しかし違和感は殆ど感じない……この特徴を色彩知覚の錯覚を用いて表現してみた。ここで試みた色彩の錯覚とは、異なる色を同じ色に見えるようにするものだ。
「色彩とフォントの相互作用」「アイデア」 誠文堂新光社 \2771(本体)
6. 女性の形態は、より強く欲望の対象となるがゆえに、さらに歪んでゆくでしょう。すでにそうなりつつあります。わたしの創る生き物は、遺伝子操作によって今後人類の形態に起こるだろう変化を抽象的に解釈したものだと言えます。腐りゆく世界における強力な身体です。
「フローリア・シジスモンディ」「夜想」復刊 ステュディオ・パラボリカ \1500(本体)
2003年12月号 [NEW]
1. 消えるという名のおばあさん/消えるという名の汽車に乗り/消えるという名の町へ帰る/さよならさよなら/手をふったら/あっという名の/月が出た
『壜の中の鳥』寺山修司(文)+宇野亜喜良(絵) \1500(本体) アートン
2. 色づいた紅葉が散りはじめています。遠くに、どこかの家の嫁入り行列が見えました。「うらやましくない」と言ったらうそになります……「山科へついたら力弥さんに会える」……それだけを心の……
『仮名手本忠臣蔵』橋本治(文)+岡田嘉夫(絵) \1600(本体) ポプラ社
3. あるひの ことです。ピッグは ほんのなかに みっつの ことばを みつけました。/ひとつは ねがい。なんだか どきどきしてきます。/ふたつめは かわること。 こっちは わくわくしてきます。/みっつめは ともだち。ともだち? ピッグは ちょっぴり こまったきもちになりました。
『ゆきのともだち』イアン・ホワイブロウ(文)+ティファニー・ビーク(絵)+木坂涼(訳) \1300(本体) 理論社
4. 太陽は、空がないと、のぼることもしずむこともできません。/空は、大地がないと、じぶんがどこにいるのか、わからなくなってしまいます。/海からつくられる雨がないと、大地は、かれてしまいます。/海は、月からの引力がないと、潮の流れがとまったままです。/そして月は、太陽の光がないと……
『5ひきの小オニがきめたこと』サラ・ダイアー(作)+毛利衛(訳) \1700(本体) 講談社
5. 次の朝、お母さんのつくってくれたサンドイッチを食べたカプチーヌは、とたんにぐあいがわるくなりました。ちょうどあの真珠をのみこんでしまったのです! お父さんがあやまちに気づいたのはこのときでした。この小さなおんなの子のおなかを切りひらきでもしないかぎり、あのいやな真珠は……
『カプチーヌ』タンギー・グレバン(文)+カンタン・グレバン(絵)+江國香織(訳) \1400(本体) 小峰書店
6. 根拠がないってことは素敵なことだ。なんの根拠もなくただ好きなだけのタイガースがぼくにとって価値がある。そのタイガースが何の根拠もなく優勝するのが、めでたい。
『ぼくはタイガースだ』五味太郎 \1500(本体) 集英社
copyright © Mizuhito Kanehara
last updated 2005/3/24