「ト ー ハ ン 週 報」

2004年1月〜2004年12月連載
「あれもYA これもYA」

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■第1回 『ロマンス小説の七日間』(角川文庫)『竜退治の騎士になる方法』(偕成社)
■第2回 『ファンタジー・ブックガイド』(国書刊行会)
■第3回 『百禁書』(青山出版社)
■第4回 『家守綺譚』(新潮社)『こうちゃん』(河出書房新社)
■第5回 『世にも奇妙な職業案内』(ブルース・インター・インターアクションズ)『ハーメルンの笛吹きを追え!』(白水社)
■第6回 『勉強のやり方がわかる。』(朝日新聞社)
■第7回 『鳥の巣研究ノート Part 1. 2』(あすなろ書房)
■第8回 『海の危険生物ガイドブック』(阪急コミュニケーションズ)
■第9回 『こころのほつれ、なおし屋さん』(クレヨンハウス)
■第10回 『ブルースの世界オフィシャルガイド』(ブルース・インターアクションズ)
■第11回 『ともだちは海のにおい』(理論社)


■第1回 『ロマンス小説の七日間』 『竜退治の騎士になる方法』

 昔から女性に大人気のロマンス小説と、最近続々とベストセラーが出るファンタジー、このふたつを思い切り大胆にパロディにした、遊び心たっぷりのおもしろい本が二冊出た。
 まずは『ロマンス小説の七日間』。主人公のあかりは翻訳家で、いま訳しているのは中世騎士道ロマンス。美人でちょっと気の強いお姫さまアリエノールと、聖剣オリハルコンを持つ「かっこよくてちょっと粗野で、過去のあるホントは心根の優しい騎士」ウォリックの、ありきたりのロマンス物だった……はずなのだが、ウォリックは途中で死んでしまうわ、アリエノール姫はあらぬことを考えつくわで、もう波瀾万丈。
 あかりは同棲中の彼氏をめぐるごたごた(その他)に巻きこまれたこともあり、ロマンス小説のあまりに都合の良すぎる展開がいちいち気に障ってしょうがなくなり、ついつい突っ込みを入れながら翻訳を進めるうちに、なんと、大胆な改造を始めてしまったのだ。
 というわけで、この小説、翻訳(創作)中のロマンス小説と、あかりの物語が並行して進んでいく。これらふたつのストーリー、最後は見事に決まる!
 『竜退治の騎士になる方法』も変な話だ。六年生の康男と優樹(女の子)は、放課後の教室にこっそり忍びこみ、30歳くらいのおじさんに出会う。おじさんはまじめな顔で「おれは、竜退治の騎士やねん」という。教室で竜がやってくるのを待っているそうな。そのうえ、どうみても日本人なのに西洋人だといいはる。「……ジェラルドゆうねん。」
 このおじさん、なんとなく役者みたいなんだけど、ときどき妙なことを口走るし、自分が竜退治の騎士になったいきさつとかを話し出すと、それがまた妙に説得力があったりする。いったい、本物なのかただの役者なのか。竜なんて、ほんとに出てくるのか。
 最初から最後まで妙なこの物語、なぜか最後は思い切り納得してしまう。いや、納得させられて、ちょっと感動させられてしまう。見事!

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■第2回 『ファンタジー・ブックガイド』

 おお、やっと出たか! とにかく、この一言なのだ。ほぼ完璧なファンタジーのブックガイドが出たのだ。おそらく英語圏でもこれほど出来のいいものはないと思う。著者は石堂藍。ここ20年以上、ファンタジーや幻想文学の紹介・評論に徹してきた人だ。読んできたファンタジーは、おそらく1500冊に近いと思う。ここでは、そのなかから選りすぐった約400点が取り上げられている。
 最初の一冊は、もちろん『指輪物語』。
「いわゆるファンタジーと言った時に私がまず思い浮かべるのは『指輪物語』だ。最も好きなファンタジーを挙げよと言われたなら『指輪物語』と答えるだろうし、誰かにとにかく一冊ファンタジーを薦めるなら『指輪物語』を選ぶだろう。
 この作品を読んでもまるっきりおもしろくないと思うのなら、あるいはどこにも魅力を感じられないのなら、その人はファンタジー向きではない」
 そうそう、そうなのだ。だから、当然、「ハリー・ポッター」に対しては冷ややかだ。
「児童文学史的にも大きな結節点と見られるかもしれない。だからといって、それに見合うだけ優れた文学作品だということにはならない。ごく普通の、わかりやすい文章で書かれた、出来のよいジュヴナイルのコミック系ファンタジーである」
 そうそう、そうなのだ。だからこの著者の選んだファンタジーは、どれもファンタジー指数が高く、どちらかというと、ちょっとマニア向けだ。が、初心者にとっては、新しい国への招待状であり、少しファンタジーを読みこんだ人にとっては奥の深い世界地図であり、すでに多くのファンタジーに親しんでいる人にとっては大宇宙へのいざないである。
 全国の小中高大の図書室(図書館)、および全国の図書館は、ぜひぜひこれを最低一冊ずつ入れてほしいと思うのだ。この上をいくガイドは、10年以上、出てきそうにない。

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■第3回 『百禁書』

 これは、いろんな理由によって禁止された本百冊の概要と、その検閲の経緯が詳しく書かれたもので、ぜひ我が家に、また各図書館に一冊置いておきたい本である。
 とにかく年頃の子どもというのは「発禁本」という言葉に異様に弱い。いうまでもなく、自分自身そうだった。中高生時代、本好きの連中のあいだでは『チャタレイ夫人の恋人』『北回帰線』『ロリータ』などは必読書だった。『ファニー・ヒル』もあったし、バートン版の『千夜一夜物語』もあった。そういった「性的理由によって弾圧された作品」が、ここにはずらりと並んでいる。ヤングアダルトにとっては、格好のガイドブックである。どういう時代、どういう社会において、どういう「いやらしさ」が問題になったのか、それがよくわかるし、なにより、ここに並んでいる本は名作なのだ。そういった本を読めば、「いやらしさ」というのは「人間らしさ」でもあることが、じつによくわかる。
 しかしこの本には、その手の本ばかりでなく、「政治的」「宗教的」「社会的」理由によって弾圧された本も並んでいる。『アンクルトムの小屋』『怒りの葡萄』『動物農場』、『赤と黒』『聖書』『種の起源』、『アンネの日記』『クージョ』『ライ麦畑でつかまえて』などなど。すごい! 名作、傑作のオンパレードである。それがなぜ「発禁」に? というふうな興味でこの本を読むとまた、おもしろい。どんな社会も決してその時代的社会的偏見からまぬがれることができないのがよくわかる。
 そのうえ、思いがけない発見もある。たとえば、イスラム教を侮辱しているとして問題になったサルマン・ラシュディの『悪魔の詩』は、これを翻訳した五十嵐一氏の殺害以外にも多くの傷害事件、爆破事件などを生んでおり、作者はいまでもロンドン警視庁の保護のもとで潜伏生活を送っている。
 本をめぐる様々な衝突の歴史は、恐ろしいほどの切実さを物語っている。

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■第4回 『家守綺譚』 『こうちゃん』

 大学生協書籍部の「読書会」に出て、毎月色んな本を読んでいるのだが、学生からのリクエストが多い作家のひとりが梨木香歩だ。彼女の最新作『家守綺譚』は、今年のベスト10に楽々と入るにちがいない。これは(たぶん)明治の頃、(たぶん)奈良か京都に住む青年の生活を綴ったもので、木や花の精や妖怪が出てくる。ついでに、湖にボートで漕ぎ出して行方不明になった友人まで掛け軸から現れてくる。京極風の魑魅魍魎活劇ではない。かなり平和な日常生活がユーモラスに語られていく。その文体がいい。
「庭が雪景色だ。降り積もった雪の間から、南天の赤い実が艶々と光っている。雪は止んでいるが空は曇り、いつ降り出すか分からない。空気は鉛の色合いと質感を帯び、風もなく音もない。/こういう日はよく家鳴りがする……」
 文体がいいといえば、須賀敦子の『こうちゃん』も素晴らしい。
「ただ こうちゃんは ある夏のあさ、しっとりと 露にぬれた草のうえを、太い鉄のくさりをひきずって 西から東へ あるいて 行くのです。鉄のくさりのおもみで こうちゃんのうしろには、たおれた草が 一直線に つづいてゆきます。」
 どこのだれか、だれも知らない男の子の物語が、こんなふうに始まる。こうちゃんは不思議な子で、「あなたが うしろをむいて 眼と眼が あったりしようものなら──。/こうちゃんは、ひとばんじゅう あなたの ひざのうえで泣き続けるでしょう」。そして秋になると、どこかへ帰りたがるのだが、どこへ帰るのかは、こうちゃん自身も知らないらしい。そして……というふうに続く。酒井駒子の絵も見事で、全体としてオールズバーグの『名前のない人』に似た雰囲気もあるが、それよりはるかに謎めいて、切ない。読み返すたびに謎は深まり、切なさも増す。今年初めて、二冊買い求めた本である。

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■第5回 『世にも奇妙な職業案内』 『ハーメルンの笛吹きを追え!』

 まず『世にも奇妙な職業案内』(ナンシー・リカ・シフ著/伴田良輔訳/ブルース・インターアクションズ)。帯に「裏ハローワーク」とかあるけど、じつは「裏」どころか、すごくまともでまっとうなフォトエッセイ集だ。遺体美容師、割礼師、コンドーム検査士、ナイフ投げのアシスタント、ワニ猟師、ボディ・ピアス師などなど、おお、こんな職業が!と思うような職業の人の写真+紹介文。『13歳のハローワーク』といっしょに、ぜひ勧めたい。人間の可能性、職業の可能性、自分の可能性について、いろんなことを考えさせられる。ただ、ちょっとマニアックかも。
 もうひとつ珍しい職業といえば、ネズミ取りかな。といってもドブネズミは万国共通の害獣で、日本でも明治時代、ネズミを殺してしっぽを持っていくと、いくらかもらえたらしい。子供のいいアルバイトになったとか。
 それはさておき、これで有名なのはハーメルンの笛吹きだろう。この伝説をもとにした『ハーメルンの笛吹きを追え!』(ビル・リチャードソン著/代田亜香子訳/白水社)は、発想も着想も展開も抜群におもしろい。なにしろ、連れていかれた子どもたちは笛吹きの「××」に閉じこめられていて、それを助けにひとりの少女が旅に出る(でぶ猫やドラゴンや、その他不思議な動物たちとともに)……という、種も仕掛けもしっかりたっぷりある物語。そのうえ、これを語るのが、その事件から九十年後の百一歳のおばあちゃん。このおばあちゃんの今と昔の話が前後しながら、ついに最後、クライマックスを迎えて、またくるりと一回転。
 拍手、拍手!

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■第6回 『勉強のやり方がわかる。』

「入学おめでとう。みなさん、大学に入ってきて、いったいここは高校とどうちがうんだろうと思っていることでしょう。ちがうところはそれこそ山ほどあるのですが、勉強、学問に限ってひとついっておくと、まったく性質がちがいます。高校までの勉強というのは、あらかじめ答えのある問題について考えるのが主でした。しかし、大学の勉強はちがいます。つまり、答えのない問題、あるいは答えの出ていない問題について考えるのです」
 大学の新入生を相手のオリエンテーションでよく耳にする言葉だ。しかし具体的にどういうことなのかは、なんだかよくわからない。そこで、この本の登場。これは、大学での勉強の仕方についての大まかなことが、目配りよく紹介されている。
 大学のシステム、シラバス、講義、ゼミナール、ノートのとり方、ディスカッションの進め方、論文の書き方、資料・文献の探し方、図書館の利用方法から、大学教員との付き合い方やセクハラのときの対処の仕方まで、至れり尽くせりといっていい。
 大学に入って、いきなり勉強の内容が変わって困っている大学生、いきなり勉強がおもしろくなって喜んでいる大学生、まだろくに大学に行っていない大学生など、いろんな学生がいると思うが、まずはこれを読んでみてほしい。どの項目も意外と常識的なことが書いてあるのに、意外な発見があるはず。
 しかし本当に読んでほしいのは高校生と受験生だ。大学時代四年間は長い。あー、大学選び間違えちゃったと思って卒業する学生も少なくない。せめて、大学の各分野ではどんなことを勉強するのか、大学ではどんなことを学ぶのかくらいは知っておいてほしい。この本を手がかりに、まず目標をさだめて、その大学、その学部、その学科について調べてみよう。目的がさだまれば、それを果たすための気力もわいてくるというものだ。

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■第7回 『鳥の巣研究ノート Part 1. 2』

 南アメリカ、アンデスの湖に住むツノオオバンは、岸から30mくらいはなれた水の中に小石をたくさん積み上げ、その石の山の上に水草を置いて巣を作る。大きなものだと直径4mくらい、高さは1m、石の重さは1500kgにもなるという。
 また、クサムラツカツクリという鳥は、木の葉や木くずと土を集めて大きな山にした巣を作るのだが、最大で高さ4m、幅10mにもなるという。
 えらい、というか、すごい、というか。しかしいったい、なんのために……?
 ところが一方で、シロクロゲリなどという鳥は、地面を足で蹴っただけの巣を作る。まるで巣ともいえないような巣である。
 いったい、なんなんだ、この違いは……?
 それはどうやら、鳥それぞれの「安心感」の違いからきているらしい。
 とまあ、そんなことを、たくさんのイラストとわかりやすい文章でまとめたのがこの二冊。
 まず一冊目のほう、最初の章は「鳥ってなんだろう」。恐竜、始祖鳥などと鳥との違いなどについていくつかの説が紹介されている。それからいろんな鳥の巣が紹介されて、最後の章は「鳥の巣からみた鳥インフルエンザ」。いまの世界を考えるヒントになっている。
 二冊目は、大きな巣や小さな巣の紹介があって、それから自然や人間とのかかわりあいから見た鳥の巣の話があって、さらに巣を作らない鳥の話。最後は、まだ巣の見つかっていない鳥の話、そして「生命の不思議」。
 鳥の巣から、いろんな方向へ、いろんな分野へ話が広がっていく楽しさ。
 鳥好きも、鳥嫌いも、みんなぜひ読んでほしい二冊。

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■第8回 『海の危険生物ガイドブック』

 この原稿が活字になる頃も、まだまだ暑いんだろうか。そんな不安が頭をよぎる、「都心、最高気温39.5度」である。こうなるともう、海しかないだろうと、絶対的「海派」の金原は思うのである。
 そこで、この本『海の危険生物ガイドブック』。英語のタイトルは Dangerous Reef Creatures in Japanese Waters。つまり、日本の海にひそむ、(主に)浅瀬の危険な生物の紹介なのだ。もちろん、ウミヘビ、サメ、エイ、ウツボといった、いかにも危険そうで危険な大型危険魚類もいるが(ウミヘビは爬虫類だけど)、イカ、タコ、ヒトデ、カサゴ、タイといった「?」な連中もいる。ついでに、「身を守るために危険な生物のふりをする」ミミックオクトパスなんてやつまでいる。いってみれば、擬装タコ。そうそう、「ドラクエ」などのRPGでよくお目にかかるミミック、海にもいるらしい。
 作者は、この本を、こういう危ないやつがいるから要注意だよというつもりで書いたように見えるが、これは擬装であって、意外で驚きに満ちた海の生物の話を書きたかったんだと思う。とにかく、「ほう、へえ、うそ!」といいたくなるほどの内容なのだ。たとえば最後の「恩を仇で返すクサフグ、逆襲するイシガキフグ」という短文なんか、すごくおかしい。
「岩陰に大きなイシガキフグを見つけたので、いたずら心を出してつかまえた瞬間、反転したフグに左手薬指をガブッとやられました。指が食いちぎられたかのような激痛! ツメが割れ、残った血豆が消えるまで半年ほどかかりました」
 こんなワサビの利いたエッセイをはさみながら、カラーの写真満載。
 それにしても海の危険な連中は、なぜ、こんなに美しく、こんなにかっこいいんだろう。不思議でしょうがない。

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■第9回 『こころのほつれ、なおし屋さん』

 これは山口県のある短大で行われたコミュニケーションワークという授業のエピソードを紹介した本なのだが、各章を読み終えるたびに、ため息がもれた。
 たとえば「生き残りゲーム」という章がある。学生は「今日は初めてのひとり旅に出かけます……出発前に親に短いメモを残してきてください(学生はそれを黒板に書く)」といわれ、みんな飛行機に乗る。と、すぐに飛行機は不時着。救命艇がきたものの、半数、つまり10人しか乗せられない。だれが生き残るか……それを決めなくてはならない。色んな方法で、それを決めていく。そして助かった人たちの親にあてたメッセージが消され、残った人たちのメッセージが残る。そこへヘリコプターがやってきて、あともう5人が助かることになる。またメッセージが消される。そして最後はそのうちのうち4人が助かることになる。ひとり、またひとりともどってきて……そのたびにメッセージが消され……
「最後に、ひとりずつが考えた。/機内の乗客全員が知らぬ者同士だったのに、自分の隣の座席の人が戻ってきたとき、なぜ、歓声をあげたのか?/生き残るとはどういうことか?/ひとが在るとはどういうことか?……」という作者の声。
 こんな授業が次々に展開されていく。新聞紙を丸めてバットを作って、絶対に自分を許せないという内緒の気持ちを思い切りぶつけて机を叩く、というエピソードもある。
「わたしたちって、苦しい時、なにかに悩んでいる時、外見では平静を装っていても、こんなにもこころのなかで叫んでいるんだ。それをからだ全部で支えているんだって、初めてわかった」という生徒の声。
 ひとつひとつ読むたびに、がつんとなぐられるような衝撃が走る。
 読み終えてつかのま、人を、いや、自分を信じてみようかという気になってしまった。

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■第10回 『ブルースの世界オフィシャルガイド』

 考えてみれば20世紀後半はロックの時代だった。ロック一色といってもいいほどロックしていた。ラップもハウスもリズムンベースも、ロックがなかったら絶対に出てきてない。いや、21世紀に入ってからだって、ロックは強い。松尾スズキ・脚本・監督の話題の新作『恋の門』の主題曲をやっているサンボマスターも『新しき日本語ロックの道と光』というアルバムを出しているじゃないか。そう、まだまだ世界はロックしているのだ。
 ロックのルーツは、何を隠そう、リズム&ブルースで、そのルーツは、知る人ぞ知る、ブルースなのだ。しかし、ブルースってなんだ? 音楽関係でじつによく耳にするこの言葉、わかっているようで、じつはほとんどわかられていない。
 アメリカ議会は2003年を「ブルースの年」とした。というわけで、今年はブルースに関する催し、イベント、企画が目白押しなのだ。たとえば、ヴィム・ヴェンターズ監督の『ソウル・オブ・マン』やマーティン・スコセッシ監督の『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』といった映画が封切りされた。
 そしてこのオフィシャル・ガイドまで出た。これまで出たブルースの入門書のなかで、いちばんわかりやすく、いちばん充実していて、いちばん楽しい。ブルースにまつわる「人名・用語事典」、入門から定番までのCDガイドなど、いたれりつくせりだ。そしてなによりうれしいのが、この本に合わせて、『オール・ザット・ブルース〜ブルースの誕生一世紀』(Pヴァイン・ノンストップ)という二枚組のコンピレーションCDが出たこと。
 そもそも、ブルースがなかったら、ローリング・ストーンズもビートルズも生まれたなかったのだ。この本を読みながら、このCDを聴いていると、それがほんとうによくわかる。ブルースやロックに興味のある人もない人も、ぜひ!

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■第11回 『ともだちは海のにおい』

 大正の終わり頃、稲垣足穂という作家が『一千一秒物語』という小品集を出した。モダンでおしゃれでナンセンスで、きりっとまとまった、短編ともいえないくらい短い、詩のような作品を集めたもので、月や星や、チョコレットやカフェが、ごちゃごちゃ出てきて、お月さまが自分をポケットに入れて歩いたり、 黒猫をつかまえて鋏でしっぽを切ったら、黄いろい煙になってしまったり。
 工藤直子の『ともだちは海のにおい』は、コドクの好きないるかが、黒いカベのようなくじらと出会って、ビールを飲むところから始まる。くじらはパリに行って、靴をはいてあっちこっち散歩しては、「サバ? ムッシュいるか。ぼくはトレビアンです」とかいうし、ちっとも悪者が出てこない冒険小説を書くし、いるかはいるかで体操やサーフィンが好きだし、夜の空はすべすべと気持ちよいから、といって、三日月に化けたりする。
 そんなとんでもない話が、のんびり、さわやかに語られていく。読んでいると、まるで波にゆられているような気がする。
 それに合間合間の詩がまたいい。
「カニや お前は砂の家/ウツボ あんたにゃ この穴だ/コンブは ここらに はえなさい/そのつきあたりに イカいなさい/サンゴは あそこで きれいにおなり……何千何億の 年のながれのなかで/何千何億の いのちの配置きまり/太陽に見まもられて/海の地図は にぎやか」
 こんなに不思議で楽しい本だから、頑張って挿絵を描こうかというイラストレーターも現れる。長新太がその人。そういえば、『一千一秒物語』も、素敵なイラストレーターが絵をつけていた。そうそう、たむらしげるだった。

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 copyright © Mizuhito Kanehara

 last updated 2005/3/20